STORY
”STORY Episode.02”では、わら細工たくぼが約70年にわたり手がけている“しめ縄”についてご紹介したいと思います。
しめ縄といえば神社の鳥居や神棚に張られているものや、お正月に飾られているイメージがあるかと思います。ここではしめ縄の起源や意味、そしてこの地域のしめ縄文化の特徴やわら細工たくぼのしめ縄についてご紹介していきます。
【しめ縄の起源と天岩戸伝説】
しめ縄の起源は日本神話の一描写、「天岩戸伝説」の中にあるといわれています。
天岩戸伝説の簡単なあらすじはこうです。
神代の昔、空の上に高天原という神々の世界がありました。太陽の神天照大御神(あまてらすおおみかみ)様や弟の須佐之男命(すさのをのみこと)様、その他多くの神々が暮らしていました。須佐之男命様は大変な暴れん坊でした。あまりにひどいいたずらにお怒りになりました天照大御神様は天岩戸(あまのいわと)と呼ばれる洞窟にお隠れになりました。
困りました八百万(やおよろず)〈大勢〉の神々は御相談かわされます。御相談の結果天岩戸の前で雨細女命(あめのうずめのみこと)様が舞いをされ、ほかの神々で騒ぎ立てます。すると天照大御神様は不思議に思われて天岩戸の扉を少し開けて外を御覧になられます。岩の扉を手力男命(たぢからをのみこと)様が開け放ちまして天照大御神様に天岩戸から出て頂くことが出来ました。そして、世の中が再び明るく平和な時代に戻りました。
天岩戸の洞窟から天照大御神様が出られた後、再びお隠れにならないようにと布刀玉命(ふとだまのみこと)様が天岩戸に注連縄を張られました。
天岩戸神社HPより一部抜粋
この天岩戸伝説にある天岩戸に張った注連縄こそがしめ縄の起源とされています。このようなことから、この地域はしめ縄発祥の地としても知られています。
また、この伝説の中にある雨細女命の舞やその周りの神々が騒ぎ立てたものが、現代にも“神楽”という民俗芸能の形で受け継がれています。日之影町の「大人神楽」では夜通し神楽が執り行われ、終盤には天岩戸を開け放つ舞である「戸取」が奉納されます。この神楽を舞う舞台である御神屋(神庭)の四方にもしめ縄が張られています。
このように天岩戸伝説はしめ縄や神楽といった形で現代にまで伝えられているのです。

【しめ縄の意味】
では、現代にまで伝わるしめ縄の意味はどのようなものでしょうか。
しめ縄は神聖な場所であることを示すものです。
しめ縄が張られている場所は神様が降り立つ場所であることを示していたり、そこに悪いものが入ってこないようにする魔除けや結界としての意味があります。
また、お正月にしめ縄を張ることで五穀豊穣や家内安全などの幸せをもたらす歳神様をお迎えするという意味があります。玄関などの入り口に張ることが一般的ですが、これは歳神様が訪れる際に目印の役割を果たし、神様を迎えるのにふさわしい場所であることを示しています。
さらに、この高千穂郷地域では1年を通して玄関や店舗、倉庫、さらには牛舎にもしめ縄が張られています。これは、山間部の厳しい環境の中で自然と向き合い暮らしてきた先人たちの “祈りのカタチ”の象徴であり、「いつも神様と一緒にいますよ」という気持ちの表れではないかと私たちは感じています。

【高千穂郷のしめ縄文化】
この高千穂郷は古くより日本神話の舞台としても広く知られており、現在においても神楽やしめ縄などの風習が深く根付いています。
また、先述したように高千穂郷では1年を通してしめ縄が張られるという全国的にも珍しい風習が根付いていますが、そのしめ縄の形にも特徴があります。
張られているしめ縄の多くが縄の両端が細くなる形状であり、これはよりしめ縄の起源に近い形とされています。さらにこの地域に伝わるしめ縄には、縄の下に房やわらが右から7本、5本、3本の計15本下がっている「七五三縄」も多くみられます。
この七五三は「天神七代、地神五代、日向三代」を意味しており、一本が一柱の神様を表しています。また、子どものおめでたい行事でもある「七五三」にもあるように縁起の良い数字であり、奇数で割り切れないことから悪いものが割って入らないとされています。
“しめなわ”には「注連縄」や「〆縄」、「標縄」などの漢字表記がありますが、「七五三縄」と書いて“しめなわ”と読む、古くから使われている表記が存在します。このことから、しめ縄発祥の地である高千穂郷に伝わる七五三縄の形がしめ縄の源流とされています。

【わら細工たくぼのしめ縄】
神話やしめ縄文化が息づくこの地域で、わら細工たくぼは1957年から現在に至るまでしめ縄を作り続けています。(工房の詳しい歴史については別のEpisodeで紹介しますね!)
工房でのしめ縄作りは、稲刈りや掛け干し(はざ掛け)を終えた11月後半~12月の約1か月半の間行われます。この約1か月半の期間で1500本ほどのしめ縄を制作しています。1年の中でも最も忙しい時期になります。

一言にしめ縄作りといっても様々な作業工程があります。
しめ縄を綯う、房を作る、七五三を挿す、房を取りつける、わらふけを切る、熨斗と紙垂を折る、扇や熨斗、紙垂、松などの青物を付ける…等々。
工房ではこれらの工程を基本的に分業制でしめ縄の制作を進めています。この時期には多くの手が必要になることから、地域の方々の手も借り、地域を巻き込みながらみんなでしめ縄作りを行っています。

たくぼの制作するしめ縄は、「七五三縄」をはじめとして、「3本房しめ縄」や「鶴の舞」など種類や大きさも様々です。詳しくはこちら
その中でも「鶴亀しめ縄」は工房のシンボルともいえます。大きく翼を広げた鶴が亀を携えている姿を表現したしめ縄であり、形を変えながらも約35年にわたり作り続けています。

このしめ縄の時期は忙しくありますが、みんなで力を合わせてゴールに向かっていく一体感があり、無事にしめ縄を作り終えることができるとその喜びもひとしおです。また、しめ縄を引き取りに来たお客様と直に接することのできる貴重な機会でもあり、毎年この時期にしかお会いできないお客様もいて大切な時間となっています。
今後もわら細工たくぼではしめ縄を作り続けることで、この地域の伝統であるしめ縄文化の維持・発展につなげることができればと思っています。また、棚田を取り巻く環境は年々厳しくなっていますが、棚田での稲作から制作までを一貫して手掛けることで、この地域の美しい棚田の維持に貢献できればと考えています。
文責 小野満 陽光
写真 川しま ゆうこ さん