STORY
“STORY Episode.04”は、材料である「わら」について紹介します。
わら細工たくぼでは多種多様なわら細工を制作していますが、大きく分けて2種類のわらを使用しています。1つはお米の収穫・脱穀後にとれる「稲わら」、そしてもう1つお米が実る前に刈り取るわらも材料として使用しており、これを「青わら」と呼んでいます。

この地域では稲作が昔から営まれており、お米の副産物である稲わらは草履などの生活道具や五穀豊穣を願うしめ縄の材料に使われてきました。
黄金色の稲わらは、節を持ち穂先に米がたくさん実っても曲がりにくく倒れない構造になっています。中が空洞のためクッション性があり、強くしなやかです。
一方、あまり聞き馴染みのない青わらですが、こちらは穂が出る前の瑞々しいわらを夏季に刈り取ります。鮮やかな緑色をしており、様々な縁起物の制作に使用しています。
爽やかな青々とした香りが立ち、清々しい印象です。色や香りは時間の経過とともに落ち着いていきます。その経年変化をお楽しみいただきたく、青味を残しています。
工房では材料である稲わらと青わらを確保するために、毎年棚田で稲作を営んでいます。
田んぼ仕事は土づくりから収穫までたくさんの工程と手間がかかります。
冬の間にトラクターで耕し、田起こしや土づくりを始め、春の雨が多い時期に畦塗り(あぜぬり。田の際を塗り固める作業)をして田に水を張った時に水が漏れないように整えます。
5月にはもみ種まきをして苗作りです。たくぼでは約7種類のお米を育てているため、種もみが混じってしまわないよう気を付けて種まきをします。種まきの後は毎日朝と夕方、小一時間の水やりのお世話が始まります。
6月に代搔き(しろかき。田んぼに水を入れ、トラクターで土を砕いて平らにする作業)と田植えを済ませると、そこから毎日の水見(水管理のこと)が始まります。Episode.3でも触れましたが、用水の水が届くのは午前0時以降という決まりがあり、水が溜まる夜中の3時頃に水見をします。平野部と違い山間部の棚田で小さな田んぼがあちこちにたくさんあるため、毎日のことですから大変です。
また草切りも畦だけでなく法面(のりめん。斜面)も広いので、ひとシーズンに何度も切らなくてはなりません。全部切り終わったと思ったらまたはじめに切った他の草が伸びてきているといった調子で、草切りは追いかけっこです。

追肥や草抜き等他にもたくさんの工程を経た後、10月にいよいよ待ちに待った稲刈りです。
工房では昔ながらのバインダーという手押しの刈り取り専用機を使って刈り取ります。最近の稲作ではコンバインという機械を使用するのが主流で、刈り取りと脱穀を一度に行うことが可能でたいへん便利なのですが、わらへのダメージが大きいため、コンバインで刈り取ったわらは材料として使えません。
バインダーで刈り取ったわら束は竹竿にかけて天日干しを2~3週間行います。天日干しの期間にわらが雨に当たると劣化してしまうため、雨が降ればビニールを天日干し中の竹竿にかけて雨を防ぎ、雨が上がれば外します。雨の度にこの作業を繰り返します。この手間ひまをかけて自然乾燥した後、米じの(脱穀のこと)をしてようやく材料としての稲わらを確保します。




一方、青わらの収穫は一足早く8~9月に行います。青わらの収穫を「青刈り」と呼んでいます。
台風や夕立など悪天候を避けて青刈りを行います。猛暑や雨が少ない年は思うように大きく育たなかったり、台風が来ると葉先が傷ついてダメージを受けてしまったり。雨が降ると青刈りはできないけど、晴れると暑さが身体に応えます。雨ばかりも困るし、全然降らないのも困りものです。
日中の暑い中、首辺りまで伸びた青わらはたいへん重たく、収穫作業は過酷を極めます。
刈り取った青わらは乾燥機で機械乾燥しています。乾燥機小屋に舞う砂埃とも闘いながら、この工程を複数回繰り返すので体力的にもたいへんハードですし、天候や生育具合などあらゆる状況のわらを最高の乾燥状態に仕上げることも難しく、毎回挑戦です。




どちらのわらも湿気が天敵です。カビを避け、それぞれの色を留めたまま保管するために湿気や直射日光を避けるなど、素材の管理を徹底しています。
忘れてはならないお米もスタッフみんなの1年の大事な食糧になります。天日干しのお米の美味しいことと言ったら。活力になり、日々の制作に励めます。
文章にすると数行ですが、たくさんの工程と手間ひまを経て収穫できたわらとお米。毎年収穫の喜びはひとしおです。
土に触れ、自然と向き合いながら、わら細工たくぼでは稲作から制作までを一貫して手がけています。
稲わらと青わらそれぞれの特徴を活かし、作るものに応じてわらの使い分けをしており、繊細なわら細工から大きな神社のしめ縄まで制作は多岐に渡ります。
良いものづくりをするために良い材料を確保する。わら細工たくぼの挑戦は続きます。

文責 佐藤 響・栗山 愛
写真 川しま ゆうこ さん